当院の臨床心理室では当院の系列施設で定期的に「アートセラピー」を実施しています。
グループで行う、いわゆる集団精神療法のひとつです。
この前は「手のトレース」というテーマを実施しました。
内容は自分の手の輪郭を写し取り、手の特徴を書き写し、
思い思いの色を付けることで作品を完成させるという内容です。
心理士が司会進行を務め、最初に作品の作り方の紹介を行います。
作品の作成はそれぞれ個人で行い、
完成した後に参加者一人一人の作品を紹介しながら感想を伺うのですが、
最初は皆さん自信がなさそうに作品の感想をおっしゃいます。
「何だかしわしわの手で、はずかしい」
「昔仕事でやっちゃって爪が欠けて不格好な手なんです」
「昔は指輪が似合うほっそりした指だったのに…」
謙遜もあるかもしれませんが、
自分の手を見つめながら、加齢やケガ、病気で損なわれたものに目が向いて
気を落とす方もいたのだと思います。
すると、ほかの参加者さんから次々とこんなコメントが上がります。
「ここにいるのは、みんなしわしわばっかりよ!笑」
「たくましい、大きな手。ご家族のために働いて怪我したなんて格好いいじゃない」
「指輪なんてしなくてもきれいな手だよ」
皆さん自分の作品には否定的なコメントが多いのですが、
グループのメンバーの作品にはとても素敵なコメントがたくさん上がるのです。
すると
「そうだよこの手でたくさん稼いだんだよ~」と銭マーク(笑)を作る方、
「ゴツゴツになったのは、子育てを頑張った証拠よね!」と笑顔になる方…
何とも言えない温かい受容的な雰囲気に包まれます。
こればかりは私一人で作り出せるものではなく、同じ時代を生きて、
それぞれの喜びや苦労を経験してきた仲間同士だからこそ
作り出せる空間なのだと感じます。
互いの作品を認め合うことを通して、それぞれの存在、
人生をも肯定的にとらえなおすことができたのではないかな?と考えました。
コロナウィルスで、人や社会との距離を見つめ直すことが増えましたが、
アートセラピーのセッションに立ち会う度に、グループの持つ力に圧倒されます。
今後も人と人とのつながりの持つパワーを大切にしていきたいと思います。