こんにちは。
富家病院 臨床心理室 山本です。
心理士はいろんな方とお話する機会が多い職業ですが
私の場合はやはり高齢者の方とお話する機会が圧倒的に多いです。
白衣を着ているからか「先生」なんて呼んでくださる方もいますが
私にとっては患者さまや入居者さまが「先生」で
今までたくさんのことを教えていただきました。
今はもうお会いできない方とのエピソードもたくさんあり
時々思い起こしては大切なこころの財産だなあと思っています。
今日はその中から一つエピソードをご紹介します。
その日は、特別養護老人ホームにて、アートセラピーを行いました。
テーマは「コラージュ」で、雑誌の切り抜きなどの写真を各々選んで
画用紙に貼りつけ、オリジナルの作品を作るという内容です。
「この写真を見てごらん」
と声をかけてくれた90代の男性入居者さまがいました。
その写真は青空に大きな虹がかかった写真で
「きれいですね」と声をかけると
「僕が見たのは、こんなもんじゃなかったよ。なんせ、空の上から見たんだから」と。
セッション中はそこまでしかお話ができなかったのですが、
後日、虹の写真にまつわる思い出話をしてくれました。
戦争中だった少年時代
空軍の訓練生として上官の先輩が操縦する戦闘機に同乗したAさん。
地上での厳しい訓練が多い中
広い空を悠々と飛び回ることができる飛行訓練は
Aさんにとってはなによりも楽しみな時間だったそう。
そして先輩が
「お前は運がいいな。あれを見てみろ」と指差した先には見事な虹が。
しかも私たちがよく見る半円形の虹ではなく
環状に広がる大きな虹だったそうです。
「今度は自分で飛行機を操縦して、また虹を見てみたい」
と胸に誓ったA少年でしたが
間もなく戦争が終わり戦闘機に乗る機会もなくなってしまったそうです。
「戦争に行かなくて済んだのはありがたいけど
もう一度空から虹を見てみたかったなあ、いひひ」と
少年のような表情でお話されました。
とてもいい話なのですが
実は話を聞いた当初はすぐに話が理解できず…
「二時の話だけどね…」?時間?待ち合わせ?と混乱していたら
「ごめんね、入れ歯が合わなくて滑舌が悪いの(笑)」と気を遣われるAさん。
勇気を出して「いえ…二時?って何でしょう?」と正直に質問しました。
すると、大笑いされるAさん。
「そうかそうか、こっちでは”虹”の言い方が違うんだね」
関東で「虹」と言うと、”じ”にアクセントがつきますが
Aさんのふるさと(中国地方)では
”に”にアクセントがつき「二時」と同じ響きになるそうです。
「90になって初めて知った。こっちに来て何十年経ったけどまだまだ田舎者だ!(笑)」
と笑いが止まらないAさんに私もつられて笑ってしまいました。
今はAさんにお会いすることは叶わなくなりましたが
いまでも虹を見かけると、Aさん、空から虹が見られるようになったかな?と
あの日大笑いしていた姿を思い出します。