こんにちは。医療相談連携室の木田です。
先日、夕食を囲んだお店のトイレの壁にこんな心に沁みるあたたかなエピソードが貼られていました。
それは、認知症のおばあちゃんの思いを受け止めた家族の物語でした。
以下、ご紹介します。
“海苔巻き”
「いっぱい食べな」
認知症のでてきたおばあちゃんが息子の清志に大きな海苔巻きをすすめました。
タマゴとキュウリと梅干の海苔巻きです。今日は小学3年生の清志の運動会。
「いらねぇよ、給食、教室で食ってきた」
清志が言いました。生徒たちはお昼は家族とは別に、生徒たちだけで給食を食べることになっているのです。
「そんなこといわないで食べな。やっと今年は運動会にくることができたんだから。
ごめんねぇ、仕事が忙しくてずっと運動会にくることができなかったんだよ。
かあちゃんもつらかったよ。毎年比呂志にさみしい思いをさせちまって」
おばあちゃんはやさしく笑って清志に語りかけています。
「比呂志はお父さんだよ。ぼくは清志だよ」
清志が口をとがらせました。おばあちゃんは清志を子どもの頃の夫だと思っているようでした。
女手ひとつで夫を育てあげたおばあちゃんは、夫の運動会にはついに一度も顔を見せたことがなかったと夫からきいていました。
それが突然、清志の運動会にいくといい、海苔巻きまで作ってしまったのです。
すっ、と夫が海苔巻きに手を出しました。
伸ばした手に涙がポロポロこぼれていました。きれいな涙でした。
夫は涙をふこうともせず、次から次へと海苔巻きを食べはじめました。ずっと無言でした。
「ひとつ、食べなさい」
私は清志にいいました。
夫が泣いているのを目にして清志は素直に海苔巻きに手を伸ばしました。
「おいしいかい?比呂志の運動会にこれて、ほっとしたよ」
おばあちゃんは安心した笑顔を見せました。清志が海苔巻きをほおばったままかけだしていき、夫はポロポロと涙をこぼしたまま、おばあちゃんの海苔巻きを全部平らげてしまいました。
来年もこようね、おばあちゃん。
私は仕事で、高齢の方、認知症の方に接する機会が多くありますが、親はいくつになっても子どものことを思っていることを教えていただいています。
この物語のおばあちゃんもそうです。
息子を思うおばあちゃんを理解して、心に寄り添う家族。
私の心もほんわかあたたかくなりました。
今後もこの物語のような、認知症の方を温かく見守る眼や知識を持った人が増えていくような仕事をしていきたいと思っています。